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どんな困難がやって来ても変わらない幸福の世界「親鸞は″無碍の一道″なり」

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カテゴリー:基礎から学ぶ仏教 タグ: 更新日:2019/01/13
 


平成30年を表す漢字は「」であったように、平成30年は「災害」の多い年でした。
1月の雪害、大阪北部地震、西日本豪雨、北海道での大地震など、災害の爪痕は深く、「まさか自分がこんな目に遭うなんて」。
被災者は驚き、悲しみに沈みました。
復興を願う声は今も各地から聞こえてきます。
 
不安、苦しみの絶えない人生ですが、親鸞聖人は、たとえどんな苦難や困難・災難に遭ったとしても、崩れない幸福があるのだよ、どんな人もその幸せの身になることができるのだよ、と断言なされています。
聖人のお言葉が記された『歎異抄』には、その世界を「無碍の一道」と教えられています。
どんな幸福なのでしょうか。

なぜ、生きることは苦しいのでしょう

親鸞聖人は、苦しみの絶えない私たちの人生を、荒波の絶えない海に例えられ、「難度の海」(教行信証)と仰っています。
難度とは、苦しみのことです。
なぜ、人生は「難度海」になるのか。
それは、
煩悩具足の凡夫が、火宅無常の世界に生きているからだよ
と、親鸞聖人は言われています。

「煩悩具足の凡夫・火宅無常の世界は、万のこと皆もって空事・たわごと・真実あること無し」(歎異抄)

煩悩」とは、欲や怒り、妬み・そねみなど私たちを煩わせ苦しめるもの
一人一人に108あるといわれます。
煩悩具足の凡夫」とは、そうした煩悩でできた私たち人間のことです。
 
そんな私たちが住む世界を、「火宅無常の世界」と教えられます。
火宅」とは、火のついた家のこと。
もし、住んでいる家のひさしに火がついたとしたら、どんな気持ちでしょうか。
テレビを見てのんびりしたり、おいしい食事を楽しんだりしているわけにはいきません。
ボヤボヤしていたら、死んでしまう。
そんな不安なところが、私たちの住む世界と教えられているのです。
なぜ不安なのかといえば、「無常」の世の中だからです。
あらゆるものに常がなく、続かない。
苦労して築き上げた家や財産、地位、名誉も、早い遅いはあれ、いつか必ず私から離れていく時が来るのです。
 
「財産も 名誉も一時の 稲光 あとに残るは ユメのタメ息」
 
例えば、サラリーマンの人生を見てみましょう。
どれほどバリバリ仕事をこなし、飛ぶ鳥を落とす勢いの人も、しばらくの間のこと。
たとえ大過なく過ごしても、やがて「定年」を迎えます。

「定年」は「生前葬」!?

定年を迎えたサラリーマンの悲哀を描いた映画『終わった人』(主演・舘ひろし)が平成30年6月に公開され、話題を呼びました。
 
原作となった内館牧子さんの同名小説は、衝撃的な書き出しで始まります。
「定年って生前葬だな」
そして、こう続きます。
「俺は専務取締役室で、机の置き時計を見ながらそう思った。あと二十分で終業のチャイムが鳴る。それと同時に、俺の四十年にわたるサラリーマン生活が終わる。六十三歳、定年だ。
明日からどうするのだろう。何をして一日をつぶす、いや、過ごすのだろう」
会社生活で手に入れてきたものから切り離され、言いようのない不安に直面する「定年」。
定年は「生前葬」という主人公の独白に、共感を覚える人も少なくないのではないでしょうか。

「命」の切り売り

平成30年の秋、首都圏の劇場では、往年の名作『セールスマンの死』が上演されました。
米国の劇作家、アーサー・ミラーの代表作で、1949年にニューヨークで初演され、ピュリッツァー賞を受賞。日本でも人気作となりました。
 
セールスマンの主人公、ウイリー・ローマンは、住宅ローンの返済や、日用品の修理や買い直しで生活は手一杯。
寄る年波には勝てず、業績が落ちるにつれて給料も下がり、ある時、妻にこんなことを漏らします。
「考えてみるとだね、一生働きつづけてこの家の支払いをすませ、やっと自分のものになると、誰も住む者はいないんだな」
ボロボロになるまで働いて、ウイリーは苦難の生涯を閉じます。
私たちも多くの場合、30年、40年の住宅ローンを組んで、その返済のためにあくせくと働いています。
人によって、仕事で売るものは異なりますが、共通するのは、「命」を売っているということでしょう。
今の日本人なら、生まれた時に80年の命を受け取り、その後、この命を切り売りして、欲しいものを手に入れているということになります。
ウイリーの嘆きは、大方のサラリーマンの嘆きともいえましょう。

「えっ、あと10年の人生?」

平成29年に刊行された『定年後──50歳からの生き方、終わり方』(楠木新・著)という本には、次のようなエピソードが紹介されています。
 
定年に近い5人の社員が居酒屋で話し合った。
60歳で定年退職するか、継続雇用を選ぶか。
それぞれの生活を思い描いて会話は盛り上がっていたが、やがて、妻の希望から60歳以降も働くというAさんがこう言った。
「自分の親は60代後半で亡くなった。それを考えると残りはあと10年だ」
その瞬間、皆が静まり返った。
それぞれの頭に浮かんだのは「えっ、あと10年?残りの人生はそんなに短いのか」という共通した思いだった。
「妻が許さないから」「健康にいいから」といった理由でとりあえず会社に残る選択が、残りの人生の短さに見合ったものではないことを各自が感じ取ったのである。
 
定年退職にせよ、継続雇用にせよ、人生のたそがれどき、悲哀に沈む道に至ることをどうにも否定できません。
災害や事故を逃れ、無事に定年を迎え花束で送られても、しばらくすれば、全てのものから切り離される「終末」を迎えます。
1年を振り返ると、「まさか、あの人が」というような有名人が雨だれのように亡くなっています。
女優の樹木希林さん、漫画『ちびまる子ちゃん』の作者・さくらももこさん、歌手の西城秀樹さん、大横綱の輪島大士さん──。
 
蓮如上人は、こうした私たちの人生を次のように述懐されています。

「それおもんみれば、人間はただ電光・朝露の夢・幻の間の楽ぞかし。たといまた栄華・栄耀に耽りて思うさまの事なりというとも、それはただ五十年乃至百年のうちの事なり。もし只今も無常の風きたりて誘いなば、いかなる病苦にあいてか空しくなりなんや」

誰もが「素晴らしき人生」を願いますが、現実には、苦難や災難、病気の難が次々と訪れます。
この様々な「難」を逃れるために、悪戦苦闘する人生。
たとえ、これらの難をうまく乗り越えられたとしても、どうしても逃れられないのは死ぬことです。
私たち人間の死亡率は100パーセントという事実です。

苦しみから「無碍の一道」へ

果たして、私たち煩悩具足の凡夫がこのような無常の世界で、幸せになれることはあるのでしょうか?
一生涯、困難や災難にも遭わず、病にもならないことはありえません。
しかしもし、本当の幸せがあるとすれば、それは、どんな幸福でしょうか。
いかなる災難や病気に遭ったとしても崩れることのない幸せでなければならないでしょう
それこそ、絶対の幸福といえるものです。
その「絶対の幸福」という世界があるぞ、生きている時にその身になることができるのだよ、と生涯、伝えていかれた方が親鸞聖人なのです。
親鸞聖人は、その「絶対の幸福」を次のお言葉で教えられています。

「念仏者は無碍の一道なり」

無碍の「碍」とは、さわりのことです。
無碍の一道とは、どんな苦難・困難・災難もさわりとならない世界のことです
中でも、最大のさわりは、人生の終末に迎える「死」です。
 
真の幸せを知らなければ、死を迎えて人は何を思うでしょうか。
「もっと金を儲けておけばよかった」
「もっと出世を」
「もっと家を大きくしておけば」
という人があるでしょうか。
ばかだった、ばかだった、求めるものが間違っていた。
なぜ死に臨んでも、崩れないものを求めなかったのか、と後悔することでしょう。
親鸞聖人は、たとえ死が来ても微動だにもしない「絶対の幸福」の世界を「無碍の一道」と教えられているのです。
このお言葉は、唯円という親鸞聖人のお弟子が書き残した『歎異抄』という書物の中に記されています。

「念仏者は無碍の一道なり。そのいわれ如何とならば、信心の行者には天神地祇も敬伏し、魔界外道も障碍することなし」

(意訳)
弥陀に救われ念仏する者は、一切が障りにならぬ幸福者である。なぜならば、弥陀より信心を賜った者には、天地の神も敬って頭を下げ、悪魔や外道の輩も妨げることができなくなる。
 
「バカな、あるはずないよ」
と一笑に付する人もあるかもしれません。
しかし、
「えー、そんな世界が本当にあるの?あるなら知りたい」
と思われる幸せな方も少なくないでしょう。
では、「無碍の一道」とはどんな世界なのか、どうしたら無碍の一道に雄飛することができるのでしょうか。
 

平家物語の冒頭で有名な諸行無常とは|一休和尚の幼い頃のとんち話

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あさだ よしあき

ブログ作成のお手伝いをしています「あさだよしあき」です。 東京大学在学中、稲盛和夫さんの本をきっかけに、仏教を学ぶようになりました。 20年以上学んできたことを、年間200回以上、仏教講座でわかりやすく伝えています。
 
   

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