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お釈迦様物語 お釈迦様とバラモンの長老・ベーランシャ

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カテゴリー:お釈迦様物語 タグ: 更新日:2018/10/05
 

お釈迦様とバラモンの長老・ベーランシャ

お釈迦様物語 お釈迦様とバラモンの長老・ベーランシャ

お釈迦様は35歳の12月8日に、仏のさとりを開かれ、布教の旅に出られた。
これは、バラモン教の盛んな地で、初めての説法をなされようとしていた時のことである。
 
長老・ベーランシャが場内に姿を現すと、会したバラモンたちが一斉に礼拝をささげる。
まともに見れば目もつぶれるほどに畏怖し、中には感極まって涙する者もある。
背後から身をかがめて従う彼も、そのおこぼれに預かって、少しばかりの優越感を味わう。
 
バラモン教の聖者として多くの敬意を受けるベーランシャは、齢120を数える。
チラリと彼は、その長老に視線を向ける。
今日はどうやらご機嫌のようだ。
その穏やかな表情に彼は、心癒やされる思いがした。
若い頃からの縁でこの長老に仕え、素晴らしい日々を過ごせたと思う。昔は〝坊や〟と呼ばれた自分も、もう高齢者だ。
すでに幾ばくもない老い先だが、どうか最期まで長老に仕えたいと願っている。

今日の集まりは、長老自らが招集したものではない。
釈迦という王族の子息が、無上のさとりを得て仏陀となり、これから説法するというのだ。
情報の早い信者から、釈迦のことはしばしば聞き及んでいた。
年若いが、仏徳を備えているという。どんな者か。彼は冷ややかに見ている。
それにしてもバラモン教の盛んなこの街に、単身で乗り込んでくるとは。まだ30代半ばというから、余程の怖いもの知らずか、自惚屋か。
 
「若造が……。無上のさとりを得たと豪語しているそうだが、どの程度か。おかしな話をしたらツッコミを入れて、大衆の前で赤恥かかせてやろう。ベーランシャ様ほどの聖者は他にないのだから」

彼はそうつぶやくと、聴衆の中に腰を下ろし、上機嫌で周囲の挨拶を受けている長老のそばに座を取り、時の来るのを待った。

バラモン

ところが約束の時間になっても、釈迦は一向に登場しない。和やかだった会場がざわめきだす。
 
「遅いな。一体、どうした?」

会場の雰囲気を察知して、ベーランシャが尋ねてきた。

「時間になりましたが、釈迦は現れないようです。きっと長老様がおいでになっているのを知り、怖じ気づいたのでしょう」
 
彼が言うと、長老は鷹揚にかぶりを振る。〝そうは言っても、間もなく出てくるだろう〟
他の側近の意見に皆同意したが、どれだけ待っても、釈迦は現れない。いよいよ空気は険を含んできた。
 
「もう相当過ぎている。感心せんな……出てこれないなら、ワシのほうから行って励ましてやろうかのう」

そう言って長老は立ち上がり、釈迦の控室に向かう。彼も背後について様子を伺った。
その時、部屋で静かに端座する釈迦が目に映った。
健康そうな、色つやのよい肌、全身から放たれる緊張感、それでいて柔和さが周囲を覆っている。
今まで会った誰からも感じ取ったことのない雰囲気だ。その年若い〝覚者〟に、彼は意外な魅力を感じた。
 
ベーランシャは釈迦の前に立ちはだかり、黙って見下ろしている。
その聖者を目の前にしながら、釈迦は目を閉じ、動揺する素振りもない。黙殺され、さすがのベーランシャも不愉快を隠さずにこう言った。
 
「釈迦とやら、そなたはなぜ、私に敬礼をしないのか」

自分に礼を失した態度に不快をあらわして、ベーランシャは問い詰める。
付き従う側近は、それでも釈迦が黙しているのを見て、
 
〝バラモンの聖者を目前にしながら、挨拶もしないとは……〟

屈辱だった。こんなことは長老に仕えて以来初めてである。ベーランシャを無視する人間は、この町には存在しないからだ。
それにしても、この青年の落ち着きようは何だ。怒りというより彼は、驚きすら感じていた。
やがてお釈迦様は、長老に向かって厳かに告げられた。
 
「われは仏なり。いまだかつて仏に敬礼させた者は聞いたことがない。汝こそわれに敬礼せよ」
 
一瞬の沈黙。側近はベーランシャを見遣る。
信じられない、という表情を浮かべ、聖者は立ち尽くしている。内心の動揺は明らかだ。幾分震えた声で、やがてこう言葉をしぼり出した。
 
「釈迦よ、そなたは仏かもしらんが、仏には敬老の精神はないのか。ワシは120歳、そなたはまだ35と聞く。そちらから敬礼すべきであろう」

この理屈にはやや無理があるように思ったが、長老も後には引けぬのだろう。彼はその立場に同情する。
同時に彼には、この場を穏便に治めたい思いが強く働いた。どうにかここで釈迦に、長老への敬意を表してもらいたい。
拝むように念じたが、お釈迦様の次の一言はさらに鋭いものだった。
 
「人間の価値は年齢で決まるのではない。その人の備えた徳によって決まるのだ。われは仏なり。されば仏徳を備えり。汝こそ、われに敬礼をせよ」
 
何という威厳に満ちた態度であろう。深みのある、それでいて静かでよく徹る声が腹底にずんと響く。
 
〝これは一体どうなるのだ〟
 
思わず一瞬、閉じた目を恐る恐る開くと、彼は信じられない光景を目の当たりにした。
永年、師と仰いだベーランシャが、その場で平伏し、お釈迦様に最敬礼しているではないか。混乱する頭で彼は思った。
 
〝ベーランシャ様が、あのようなことをなさるとは……〟

しかし、そこまでせずにおれぬ何かが、この若者には確かにある。頭頂から指の先に至るまで、身体の全てが真理を体得しているかのようだ。そのことだけは、彼も感じ取った。
 
大衆の前へと、ようやくお釈迦様は姿を現された。仏陀の威徳に圧倒されたようにベーランシャは、うなだれたままその後に続く。少し後れて彼も会場に入ると、大衆のどよめきが渦巻いていた。聴衆は、長老の後に釈迦がついて出て来るものと思っていたに違いない。
 
しかし、尊敬するベーランシャの態度を見て、〝ああ〟と天を仰ぐ者、一心に手を合わせて礼拝する者、混乱して何かをつぶやく者、さまざまであったが、皆、お釈迦様への気持ちは大変わりしたようだ。場内に立ち込めていた、よどんだ空気は雲散していた。
 
もしや、と側近の男は考えた。釈迦は、我々の驕慢の心を正すために、わざと時間になっても現れなかったというのか。同時に大いなる畏怖が心を覆う。心の頭を垂れ、真剣にこの説法に耳を傾けねば、と思った。
 
仏のさとりを、そのままに説き明かされた内容は、深遠にして難解であったが、一人として途中で座を立つ者はなかった。真理の法に誰もが打たれた。仏陀の偉大さに、多くの聴衆が帰依したのだった。

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あさだ よしあき

ブログ作成のお手伝いをしています「あさだよしあき」です。 東京大学在学中、稲盛和夫さんの本をきっかけに、仏教を学ぶようになりました。 20年以上学んできたことを、年間100回以上、仏教講座でわかりやすく伝えています。
 
   

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