お釈迦様物語|長者と老婆|他人に親切をする心がけ「三輪空」とは
お釈迦様物語 給孤独長者と老婆
祇陀太子(ぎだたいし)の樹林を譲り受けて祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)を建立し、
(関連)
お釈迦様物語 給孤独長者と祇園精舎の建立
お釈迦様の教団に寄進したコーサラ国の富豪・給孤独長者(ぎっこどくちょうじゃ)は、自ら布施するだけでなく、人にも大いに布施を勧めた人でした。これはそのエピソードの一つです。
精魂込め、数カ月かけて仕上げた織物は、我ながらほれぼれする出来栄え。その手触りを楽しむように抱え、老婆は街をゆったり歩いている。
目下の関心は、この布をどんな服に仕立てるか。これだけ上等の布地はそう簡単には手に入らない。仕立てる服もさぞ立派だろう。そう考えると、口元が自然に緩んでくるのであった。
その時、ふと、街角の人だかりが目に留まる。
群衆の真ん中で何かを訴えているのは、これまで何度か食事を恵んでくれた長者だった。
自分のような貧しい者にも親切で、名は確か……スダッタといったが、町では「給孤独(貧者に施す人)」の名で親しまれている。その長者様が、こんな所で一体、何を話しているのだろう?老婆は近づいて耳をそばだてた。
「皆さん。皆さんは仏陀・釈迦牟尼世尊をご存じですか。宇宙最高の仏のさとりを開かれた尊いお方です。
仏のご出世にあうことは、幾たびの生死(しょうじ)を繰り返しても有りえぬ難しいことなのに、そんな尊いお方が皆さん、現に今、生きてましまして説法してくださっているのですよ」
──仏陀?釈迦?どこかで聞いた気がするが、それにしてもそんな尊い方がおられるとは知らなかった。
老婆は話の続きに耳を傾けた。
「私は皆さんに、仏陀とご縁を結んでもらいたいと思い、王様のお許しを得て布施を募ることにしました。
仏陀とそのお弟子方に、食事、金銭、衣類、何でもいい。あなたの大事なものを施し、功徳を求められませんか。
どなたでも結構。額や量の多少も問いません。私が責任持って仏陀にお届けいたします。どうぞ、ご参加ください」
温和な長者の言葉に、多くの人が心動かされたようだ。
早速、家に準備をしに帰る者、詳しく説明を聞きに来る人も跡を絶たない。
そうするうちに、さまざまな志が集まってきた。
だが、老女は今一つ腑に落ちなかった。あれほどの金持ちが、なぜ貧しい者にまで施しを勧めるのか。
貧乏な私ごときが、わずかの施しをしたといって何になろう。布施は長者がすればいいのではないか、と。
その時、たまたま隣から、その疑問に答える人の声が聞こえてきた。
「自分が欲しいからではない。長者は慈しみの心から布施を勧められているのだ。私たちの果報は全て、自らの過去の行いによるもの。まかぬタネは生えぬからな。
仏さまへの布施は大変尊い善根であり、施した人の功徳となるから、一人でも多く、この勝縁(しょうえん)を、とのお計らいなのだよ」
黙って聞いていた貧女は、帰りの道中、その言葉をかみしめた。
「今の果報は、全て私のタネまきだという。これまで貧しかったのも、きっと前世に施しを嫌い、自分のことばかり考えて、善根を求めてこなかったからだろう。ここにある一反の織物は大切だが……どうしよう」
心は布施に傾くが、せっかく織り上げたお気に入り、手離すのは惜しいとためらい、心は揺れる。そうして夜は更けていった。
悩み眠れず迎えた翌朝、窓の外を長者の使者が、大声で叫びながら通る。
「布施される人はありませんか。どなたでも、どんな物でも結構です。歩けない人は、こちらから伺います」
その声に吸い寄せられるように、老女は大事な織物に手をかけて窓の外へ、そっと投げた。
すぐに驚いた顔の使者が、織物を大事そうに抱えて入ってきた。使者の問いに、昨日からの経緯を告げると、彼はすぐに広場へ織物を届けに出ていった。
やがて給孤独長者が、自ら二、三の高価な品物を携え、訪ねてきた。
「あなたがこの素晴らしい織物を布施されたのですね。本当に尊いお志です。大変な功徳を求められましたね」
老女の尊行をたたえて長者は、持参した飾り物を差し出す。
その手を握り締める老女に、給孤独は語りかけた。
「施すものによらず、布施の心掛けが大事である、とお釈迦様は教えられています。どうか体を大切に、これからも仏縁を求めてください」
老婆は涙を流して喜んだのである。
お釈迦様は、布施の心がけを「三輪空(さんりんくう)」と教えられています。
三輪を空ぜよということで、三つのことを忘れるようにしなさいということです。
三輪とは、施者(せしゃ)、受者(じゅしゃ)、施物(せもつ)の三つです。
施者=布施をする人(私が)
受者=布施を受ける人(誰々に)
施物=布施をする物(何々を)
人に布施、親切をした時に、
私が、誰々に、何々をしてやった
この心を忘れるようにしようと教えられています。
これをいつまでも覚えていると、布施をした相手が何もしてくれないとき
「してやったのに」
と恩着せ心となり、腹が立ち、苦しみます。
相手の幸せを念じて、三輪空を実践していきましょう。
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