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お釈迦様物語 この身体はだれのものですか

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カテゴリー:お釈迦様物語 タグ: 更新日:2018/10/06
 

この身体はだれのものですか
これは大号というお釈迦様の弟子が、商人であったころの話である。
 
金色の太陽が半ば沈むと、急に青暗く、寒々した空気に包まれた。
他国からの帰途、彼は道に迷っている。
幾度か往来したはずなのに、どこで間違えたものか。見覚えのない景色を横目に、足を急がせる。
人里離れ、宿もない。心細さと焦りで、立ち止まれば気が萎える、とひたすら行くと、森に抱かれた墓地に差しかかった。とっぷり日も暮れ、辺りは木々に遮られた黒い闇。枝葉の隙き間から銀色の月明かりが細くさし込んでいる。もう休みたい、体は悲鳴を上げていた。
“墓場か……。気味悪いが仕方ない、今夜はここに宿をしよう”
夜気に当たらぬよう大きな木陰に身を寄せると、早々に寝入った。
どれだけたったろう。何かの足音か。異様な気配に目が覚めた。
よく見ると、墓地の奥から死体を抱えて、だれかやってくるではないか。危うい予感が走り、素早く身を隠す。
やがて月光に照らし出された巨漢を見た瞬間、彼は腰から力が抜けていくのを感じた。
筋骨隆々の赤い肌をした、それはだった。
 
“今からあの死体を食らうのだろうか。鬼は生き血滴る人の肉しか食わぬと聞いたことがある。見つかれば、オレも食われてしまうに違いない”
 
急いで樹上に避難した彼は、震えながら息を潜めて様子をうかがう。間もなくもう一匹、青いのがやってきた。
 
「おい、その死体をよこせ」
と青鬼。険悪な空気に、赤い奴が怒鳴る。
「オレが先に見つけたのだ。渡すものか」
 
にらみ合う二匹が、腕力で勝負を決しようと身構えたその時、何を思ったか赤鬼が、こちらを指さして言った。
「あそこに、さっきから見ている人間がいる。あれに聞けば分かろう。証人になってもらおうじゃないか」
 
“気づいていたのか!!”
 
血の気が失せた。だがこうなっては、いずれ食い殺されるのは避けられぬ。ならば真実を言おうと決心した。
「それは赤鬼のものである」
腹を据えて一言放つと、恐ろしい形相で青鬼がズカズカと歩み寄ってくる。
たちまち引きずり下ろされ、片足を食べられてしまった。
 
“ギャー”
あまりのことに叫喚すると、気の毒に思ったか、赤鬼がだれかの死体の片足を取ってきて接いでくれた。
激高する青鬼は、次に両手を抜いて食べる。
赤鬼はまた、ほかの死体の両手を取ってきてつけた。
青鬼は大号の全身を次から次に食べ、赤鬼はその後から元通りに修復する。
大いに食べて満足したのだろう。青鬼はやがて帰っていき、赤鬼も、
 
「ご苦労であった。おまえが真実を言ってくれて気持ちがよかったぞ」
と礼を告げて立ち去った。
 
一人残された彼は、今の出来事を夢のように思い出し、いろいろ体を動かしてみるが、元の身体と何ら変わらない。
ただ、この手足は自分のものでないことだけは間違いなかった。どこのだれの手やら足やら、と街へ帰ったあとも、
「この身体はだれのものですか」
大声で叫びながら尋ね歩いたので、大号尊者と呼ばれるようになったという。
 

未来の医学は、肉体丸ごと替えるかもしれぬ。
自分のものでない物は、大号尊者の手足だけではない。
 
仏教では、私は肉体ではなく、統一的主体があると教えられているのです。

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あさだ よしあき

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