お釈迦様物語 仏弟子アナリツの誓い 失敗した時の大事な心がけ
精舎(しょうじゃ)では善男善女が肩を並べ、真剣にお釈迦様の説法を聴聞(ちょうもん)していた。
瞬きさえ惜しむような張り詰めた空気の中で、仏弟子アナリツは不意に襲った睡魔と闘っている。不摂生をした覚えはないが不覚にも、彼はつい居眠りをしたのだ。
法話のあと、犯した過ちの大きさに震えながら、お釈迦様の御前にひざまずいて、うなだれた。
「何が目的で、仏道を求めているのか」
お釈迦様の問いにアナリツは、
「はい。生死の一大事の解決のためでございます」
「そなたは良家の出身ながら道心堅固、どうして、居眠りなどしたのか」
慈言が胸に響き、身の置き場もないような気持ちになる。悔悟の念を絞り出すように、アナリツは誓った。
「今後、目がただれようとも眠りはいたしません。どうか、お許しください」
その日から熱烈な修行を敢行した彼は、夜が更け、暁を見ても、決して眠ることはなかった。不眠は連日に及び、“あの誓いは聞法の場のみのこと”と思った周囲からは、驚きとともに忠言が多く寄せられた。夜も休まぬ決意とは、到底だれも思わなかったのだ。
やがて、不休の修行で目を患った彼に、お釈迦様は諭された。
「琴の糸のように張るべき時は張り、緩むべき時は緩めねばならぬ。精進も度が過ぎると後悔する。怠けると煩悩が起きる。中道を選ぶがよい」
侍医の、“もう少し、眠れば治る”の強い勧めにも、彼はお釈迦様との誓いを貫き徹し、ついに両眼を失明した。同時にしかし、深遠な心眼が開け、釈迦十大弟子の一人、アナリツ尊者となっている。
彼が目の光を失ってからのこと。衣のほころびを繕うため針に糸を通そうとするが、見えないのでかなわない。そこで周囲に呼びかけた。
「だれか、善を求めようと思う人はありませんか。この針に糸を通していただきたいのです」
しばし待つも、応じる人はない。あきらめかけた時、傍らに気配がした。
「ぜひ、私にさせてもらいたい」
声の主はお釈迦様だった。アナリツは驚いて、
「世尊は、すべての善と徳を成就なされた方ではありませんか」
畏れて言うと、お釈迦様は、
「仏の覚りを開けばとて、小善をおろそかにしてよい道理がない。世の中で、善を求めること私にすぐる者はない」
アナリツは、ありがたくお釈迦様の親切を拝受した。
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