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お釈迦様物語 99人殺した殺人鬼オークツマラへの巧みなお釈迦様のお導き

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カテゴリー:お釈迦様物語 タグ: 更新日:2018/10/05
 

お釈迦様と殺人鬼オークツマラ
寝息が耳につく。女は寝返りを打ち、夫に背を向けた。何も知らずに眠る、彼の暢気がしゃくに触る。
この数日、まぶたは閉じることを忘れたようだ。眠りたいと願うほどに目はますます冴える。まんじりともせず、白んできた空を恨めしく眺めながら、彼女は朝を迎えた。

名の通った婆羅門(ばらもん)である夫の元には、国中から多くの若者が集い、切磋琢磨している。
師の貞淑な妻として、かいがいしく立ち居ふるまう彼女は、時に姉として、時に母のように、弟子たちから憧憬を集める。
だがありきたりの畏敬に、いつしか退屈を覚えていた。
“まだ若いのに、姉や母だなんて……私だって一人の女として見られたい”
人知れず不満を抱く彼女の前に、才知、弁舌、容貌、ともに優れたその青年、オークツマラは現れた。
 
いかなる過去の因縁か。巡り会うべき人に会えた、と女は身を震わせる。一方で、出会ってはならぬ相手と気づくのにも、さほど時間は要らなかった。
有閑夫人の退屈しのぎどころではない。抗えぬ力で女は、美青年へのかなわぬ恋情に身を焼いた。それは夫が、彼への寵愛を深めるのと歩を合わせるように、深みへはまっていく。

悶々と眠れぬ夜の、これが理由であった。

女はやがて、夫が近々、多くの弟子と遊行すると知った。留守を任せられたのは、一人オークツマラ。降ってわいた“幸運”に、彼女はほくそ笑む。
“ただ、告白するだけでは夫にバレないとも限らない。危ない橋を渡る以上、彼には共犯者になってもらわなくては……”
ひそかに計らい、その日の来るのを待った。
 
呼び出した密室。少女のように胸がときめく。もう後には引けない。秘めてきた愛恋の情を訴えると、物堅いオークツマラは身を硬くして後じさる。なおも執拗に密通を迫るが、最後は断固拒まれ、不貞をいさめられた。
こうならぬこともないと、わずかに覚悟もしていたが、ここまでかたくなとは。さすが女の身の恥ずかしさ口惜しさに打ちしおれ、すごすごとその場を立ち去った。
のぼせ上がった気持ちが急速に冷めると、彼の誠実は辱めとしか思えない。

次第に激しい憎悪が込み上げ、恐ろしい復讐をたくらんだ。
 
夫の帰宅を見計らい、女は渾身の芝居を打つ。自らの着衣を引き裂き、あられもない格好で床の上に打ち倒れた。
驚いた夫に問われるまま、不在中、オークツマラに不倫の恋を強いられ、こんな辱めを、と涙ながらに訴えた。
 
まさか──。婆羅門は愕然とした。後継者と信じた愛弟子の所業とは、にわかには信じ難い。だが数段上を行く妻の演技力と克明な作り話に、老師は激しい嫉妬の炎を燃え上がらせた。
こうなれば人師とて、ただの男。平凡な一時的な復讐よりも、自滅に仕向け、オークツマラに永遠の苦痛をなめさせてやろうと考えた。そこでさりげなく彼を呼んで命じる。
 
「おまえはもう、ワシのすべての教えを修得した。後はただ一つ、この剣で街の辻に立って百人を殺し、一人一人より一本の指を切り取って、首飾りとするがよい。さすれば、おまえの悟りの道は完備するであろう」
 
恐懼するオークツマラに、師は一口の剣を差し出す。悟りの道とはいえ、なんと残忍な……しかし師命に背くことはできぬ。
観念したように刀を受け取った弟子を見下ろした時、男の口元がわずかに緩んだ。悲劇の幕が、こうして開かれようとしていた。

お釈迦様と殺人鬼オークツマラ

「この剣で百人殺し、その指で首飾りを作れ。それで悟りの道は完備する」
あまりに残忍な行為を強いる師の言葉を、恐懼しながらオークツマラは聞いていた。差し出された刀の怪しいきらめきに魅入られ、ためらいながら柄を取る。
ちらりと覗いた師の顔は、一瞬、醜くゆがんで見えた。が、ここまで来たら、もう逆らうまい。ゆっくりと立ち上がった全身には、もう迷いは消えている。やがて街へと走りだしたその目は、次第に狂気をはらんでいった。
 

事の起こりはこうだ。
師の留守中、その妻がオークツマラに密通を迫ってきた。恩師の妻と不倫など、とても考えられなかった彼は、どうにか諌めて自室に逃げ戻った。

“……恐ろしいことだ”
胸を占めた嫌悪感から、初めは師妻をかたくなに拒んだが、その裏に、こんな思いが潜んでいたと気づいて戦慄する。
 
“憎からず思う二人。通じて何が悪い。きっと隠しおおせるに違いない”

自分こそ情欲の塊ではないか。思う先から、さらに浅ましい心がわいてくる。
“不倫に手を染め、万一にでも露見すれば、師の寵愛も失い、ここも石もて追われる身となろう。いずれが得か……”
 
この損得勘定が最後には働いて、踏みとどまったのが正直なところ。そう気づいた時、疑念が転じてある思いがひらめいた。

 

“……もしやあれは、この私の浅ましさを悟らせようと、お師匠様が計らった芝居ではあるまいか。そうすれば彼女のあの不可解な行動も説明がつく……”
師への無垢な買いかぶりが彼をがんじがらめにする。
“あの方に間違いはない”
信じ切ろうと力む。その純真さは悪師に出会った時、悲劇の種子となる。

自分には“素質”がある。善良を装った顔の下に、よくもこれだけ凄惨な所業をなす器量があったものだ。他人事のようにオークツマラは、血にまみれた己が全身を眺め回す。ドス黒い達成感が心を酔わせている。
初めの一人こそためらったが、ひとたび手を染めれば、あとは林で槙を刈るようなたやすさで、手当たり次第に剣を振り回した。力任せの太刀が、肉を切り裂き、頭蓋をたたき割る。道行く者は老少男女を問わずに殺し、その指を切ってつなぎ、見る見るうちに紅に染まった鬘(首や身体の飾り)を作り上げた。
 
悪バラモンの敷いた破滅への道を、彼はひたすら驀進する。死体は累々と積まれ、ついに九十九人までになった。

だれ言うとなく彼をオークツマラ(指鬘)と呼んだ。
 
狂鬼のごとく最後の一人を求めていた時、目の前に現れたのは“生みの母”であった。
わが子の所業をうわさに聞き、驚いてやってきたのだ。彼にはもう、だれかれの見境もなかったが、さすがに愛する母に会い、心が動揺する。麻痺した心にも懐かしく温かい感興がよみがえり、しばし人間らしい心が戻った。
その時、彼の目にもう一つの影が映る。仏陀・お釈迦様であった。見るが早いか、母に向いていた身体を反転し、お釈迦様めがけて猛然と突進した。ところがどうしたことか、一歩も前進できない。彼は焦って鋭く叫ぶ。
「沙門よ、止まれ!」
お釈迦様は、静かに応じられる。
「我は止まれり。止まらざるは汝なり」
奇異な答えに、彼は大いに驚いてワケを尋ねる。
 
「そなたは邪教にだまされて、みだりに人の命を奪おうと焦っている。だから少しも身も心も安らかになれぬのだ。我を見よ。生死を超えて何ら煩うところがない。惑える者よ。早く悪夢より覚めて無上道に入れ」
 
お釈迦様の尊容と無上の威徳に接して、さしもの悪魔外道も慟哭し、たちまち敬虔な仏弟子となっている。
 
後日、托鉢中の彼を見て、道行く人が言った。
「あれはオークツマラではないか。憎むべき殺人鬼だ」
呼応するように人々が群れ集まってくる。手に手に石を取り、刀を持って攻撃してきた。手向かわぬ彼は大衆のなすがまま、深傷を負い、ようやく逃れて、仏陀のもとに戻ってきた時は虫の息だった。仏の教導により、自己の造った悪業が、このような報いを招いたと知り、忍んで受け入れたのである。

「わが弟子の中、法を聞いて早く悟ること、指鬘のように勝れた者はなし」
お釈迦様は言われたという。

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あさだ よしあき

ブログ作成のお手伝いをしています「あさだよしあき」です。 東京大学在学中、稲盛和夫さんの本をきっかけに、仏教を学ぶようになりました。 20年以上学んできたことを、年間200回以上、仏教講座でわかりやすく伝えています。
 
   

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