お釈迦様物語 長者の心を変えた孤児・サーヤの布施の心がけ
お釈迦様ご在世のとき、孤児となった少女サーヤは給孤独長者(ぎっこどくちょうじゃ)の屋敷に引き取られて働いていた。赤ん坊の世話と食器洗いが彼女の仕事である。
ある日、温かく抱き締めてくれる母がもうこの世にいないと思うと切なくなったサーヤは、道端に座り込み、大声で泣いてしまった。
そこを通りかかった僧侶が、父母を亡くした寂しさを訴えるサーヤに、“人は皆、独りぼっちである”というお釈迦様のお言葉を示して慰めた。
“じゃあ、どうすればその寂しい心がなくなるの?”と問うサーヤに、その僧侶が「仏法を聞きなさい」と勧めると、彼女は大いに喜び、長者の許しを得てお釈迦様のご説法を聞くようになった。
ある日のこと。夕食を終えた給孤独長者が庭を散歩していると、サーヤが大きな桶を持ってやってきて、
「ほら、ご飯だよ。ゆっくりお上がり。ほらお茶だよ……」
と桶の水を草にかけ始めた。訳を聞くと、茶碗を洗った水を、草や虫たちに施していると言う。
「そうだったのか。だが“施す”などという難しい言葉を誰に教わったの?」
「はい、お釈迦様です。毎日、少しでも善いことをするように心がけなさい、悪いこ
とをしてはいけませんよ、と教えていただきました。善の中でも、いちばん大切なのは『布施(ふせ)』だそうです。貧しい人や困っている人を助けるためにお金や物を施したり、お釈迦様の教えを多くの人に伝えるために努力したりすることをいいます。私は何も持っていませんから、ご飯粒のついたお茶碗をよく洗って、せめてその水を草や虫たちにやろうと思ったのです」
サーヤの話に、長者はこう言った。
「ふーん、サーヤはそんなよいお話を聞いてきたのか。よろしい。お釈迦様のご説法がある日は仕事をしなくてもいいから、朝から行って、よく聞いてきなさい」
幾日かたち、長者はサーヤが急に明るくなったことに気づいた。いつも楽しそうに働いているサーヤを呼び、再び話を聞いた。
サーヤは、「私のように、お金や財産が全くない人でも、思いやりの心さえあれば、七つの施しができると、お釈迦様は教えてくださいました。私にもできる布施があったと分かって、うれしくて」と言って、七つの施しの中にある和顔悦色施(わげんえっしょくせ・明るい笑顔、優しいほほえみをたたえた笑顔で人に接すること)を心がけ、一生懸命、優しい笑顔で接するように努力していると言った。
「ふーん。ニコニコしていることは、そんなにいいことなのかい」
「はい。暗く悲しそうな顔をすると、周りの人もつらくなるし、自分も惨めな気持ちになります。苦しくてもニッコリ笑うと、気持ちが和らいできます。周りの人の心も明るくなります。いつもニコニコしようと決心したら、親がいないことや、つらいと思っていたことが、だんだんつらくなくなってきました。泣きたいときもニッコリ笑ってみると、気持ちが落ち着いてくるんです」
聞いていた長者は胸が熱くなった。
「サーヤよ。そんなにいいお話、わしも聞きたくなった。お釈迦様の所へ連れていっておくれ」
こうして長者は初めてお釈迦様のご説法に直接触れることになった。
*給孤独長者……古代インド、コーサラ国の長者。孤独な人々を哀れみ、よく衣食を給与したので「給孤独」と呼ばれた。「スダッタ」ともいう。
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