2019年センター試験「倫理」の仏教に関する設問について1
2019年のセンター試験の「倫理」では仏教に関するいくつかの設問が出ていました。その設問を通して、仏教はどんな教えなのか、説明したいと思います。
五蘊について
第2問の問4に「仏教では、人間を構成する色・受・想・行・識という五つの要素(五蘊)が説かれるが、その五つとも身体における物質的な要素のことを表す。」とあり、これが〇か×か。
五蘊は「ごうん」と読み、五陰(ごおん)と言われることもあります。
仏教では人間は色蘊(しきうん)・受蘊(じゅうん)・想蘊(そううん)・行蘊(ぎょううん)・識蘊(しきうん)の五つのものによってできていると教えられます。
色蘊 物質的、身体的なもの
受蘊 感覚作用
想蘊 表象作用、
行蘊 意志・欲求などの心作用
識蘊 対象を識別する作用
この五蘊の中で物質的な要素は色蘊だけで、他の4つは物質的な要素に対して、精神的な要素といえます。
ですから「その五つとも身体における物質的な要素のことを表す」というのは間違いということがわかります。
涅槃とは
上と同じく第2問の問4に「仏教では、心や身体が変わらないものであることを知ることで、煩悩の炎が吹き消された涅槃の境地に至るとされる。」とあります。
涅槃とは「ねはん」と読みます。
涅槃とはインドの昔の言葉では「ニルバーナ」、吹き消すという意味です。煩悩の炎が吹き消された状態のことを「涅槃」といいます。
問題文には「心や身体が変わらないものであることを知ることで」とありますが、仏教では「諸行無常」を教えます。
「諸行無常」とは「諸行」はすべてのもの、「無常」は続かないということで、「諸行無常」とは「すべてのものは続かない、変わり通しである」ということです。諸行の中に、心も身体も入ります。
心や身体が変わらないのではなく、変わり通しと教えるのが仏教であり、諸行無常です。
諸行無常が間違いなしとハッキリ知らされていれば、どんなに大事にしているものが壊れても、はじめから、やがては壊れるものと決まっている、水が高きから低きに流れるように、ただ当たり前のことが起きただけなので、驚くことも悲しむこともない、涅槃の境地にいたることができます。
私は諸行無常を重ねて聞けば、諸行無常は間違いなしと心から思えることがあるでしょうか。
自分が大事にしているものは、やがては壊れるものと思えるでしょうか。
いつまでも続くと思っていないでしょうか。
いつまでも続くと思っているから、壊れた時に、こんなはずではなかったと苦しんだり、悲しんだりします。
室町時代に活躍した一休さんの子ども時代に、このようなエピソードがあります。
一休さんがまだ子どもの頃の話です。
和尚さんが出かける用事があったので、留守を預かった一休さんと他の小僧たち。和尚さんがいないことをいいことにお寺の中で遊んでいると一休さんの兄弟子がうっかり、和尚さんが大事にしていた将軍から頂いたという茶碗を割ってしまいました。
和尚さんが帰ってきたらどれだけ叱られるかと泣いている兄弟子をかわいそうに思った一休さんは「じゃあ僕が割ったことにしてあげるよ」と罪を引き受けました。
やがて和尚さんが帰ってきました。
「今日もいたずらばかりしていたのか」と和尚さんに言われた一休さんは「そんな、とんでもない。一日座禅工夫をしていましたが、解けない難問がありまして」と言います。
その難問とは「すべての人はやがて死ぬのか、死なない人もいるのか」「すべてのものはやがて壊れるのか、壊れないものもあるのか」という難問です。
これに対して和尚さんは「この世は諸行無常だから、すべての人は必ず死ぬ、すべてのものは必ず壊れるのじゃ」と答えます。
一休さんが「特別に大事にしていれば壊れないものもあるのではないのですか」と念を押すと、「いやいや、時節到来といってやがては壊れるときがくるのじゃ」と諸行無常を強調して教えました。
そこで一休さんが壊れた茶碗を取り出すと、和尚さんは驚いたものの先ほど「この世は諸行無常じゃ」と自分で言った手前怒るわけにもいかず、がっかりして「そうか、もう時節が到来したか」とつぶやいたそうです。
こちらの記事で一休さんと和尚さんの話をもっと詳しく書いています。
このように諸行無常であることを教えるのが仏教ですから、「心や身体が変わらないものであることを知ることで、煩悩の炎が吹き消された涅槃の境地に至るとされる。」と書かれているこの問は間違いということになります。
残りの問題については、別の記事で解説します。
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