2019年センター試験「倫理」の仏教に関する設問について2
2019年のセンター試験の「倫理」では仏教に関するいくつかの設問が出ましたので、それらについて説明したいと思います。
輪廻と解脱について
第2問の問5に「古代インドでは、ブッダをはじめとして、バラモン教の伝統に囚われない自由思想家たちはいずれも、輪廻からの解脱という考えを否定した。」とあります。
バラモン教とは当時のインドで広く信仰されていた宗教です。
現在のインドにも大きな影響を与えており、カースト制度という厳しい身分制もバラモン教から来た制度です。
お釈迦様は人間にはそのような差別は一切ないと教えられ、すべての人の命は尊いことを「天上天下 唯我独尊」というお言葉で教えられました。
「輪廻(りんね)」と「解脱(げだつ)」について
「輪廻」とは、車の輪が廻るとあり、同じところをぐるぐる廻り続けることをいいます。お釈迦様は、生まれてから死ぬまで苦しみ悩みから離れきれないが、生まれてから死ぬまでだけでなく、はてしない過去から、私たちは苦しみの世界から苦しみの世界へと旅をしており、苦しみの世界から離れることができないとお釈迦様は教えられています。これを「輪廻」といいます。
「解脱」とは、苦しみの世界からの旅を打ち止めすることをいいます。そのチャンスは人間に生まれた時だけにあるとお釈迦様は教えられました。生まれ難い人間に生まれ、仏法を聞いて、この苦しみの世界から脱し、永遠に変わらぬ幸せになれる(解脱)、だから、人間に生まれたことは大変、喜ばねばならぬことだと教えられました。
仏教では「輪廻」と「解脱」は「否定」されていません。
ですからこの問は間違いであることがわかります。
「天上天下 唯我独尊」はこの輪廻と解脱と関係があります。
こちらの記事で詳しく解説しています。
慈悲とは
第2問の問8に「慈悲」についての説明で1~4の中で最も適当なものを選べとあります。
1 慈悲とは、四苦八苦の苦しみを免れ得ない人間のみを対象として、憐れみの心をもつことである。
2 慈悲の実践は、理想的な社会を形成するために、親子や兄弟などの間に生まれる愛情を様々な人間関係に広げることである。
3 慈悲の実践は、他者の救済を第一に考える大乗仏教で教えられるものであり、上座部仏教では教えられない。
4 慈悲の「悲」とは他者に楽を与えることであり、「悲」とは他者の苦を取り除くことを意味する
「慈悲」とはよく聞きますが、仏教から出た言葉です。
慈悲について、中国の曇鸞大師という方は
苦を抜くを『慈』という、楽を与うるを『悲』という。(浄土論註)
と教えられています。
「苦しみを抜くことを『慈』と言い、幸せを与えることを『悲』と言う。」という意味です。
この「慈悲」のことを別の言葉で「抜苦与楽」(ばっくよらく)と言い、相手の苦しみをなくしてやりたい、相手を幸せにしてやりたいという心のことで、この抜苦与楽が仏教の目的であり、仏教は「慈悲の教え」ともいわれます。
仏教では、私たち人間の慈悲を小慈悲、仏の慈悲を大慈悲と教えられています。
私たち人間には、慈悲の心がありますが、小慈悲にいわれるのは、3つの特徴があるからです。
・気持ちが続かない
・差別がある
・よかれと思ってやったことがかえって相手を苦しめることがある(盲目の慈悲)
仏の慈悲は、その反対の特徴があります。
・変わらない
・すべての人間だけでなく、他の生きとし生けるものにも平等にかかる
・智恵に裏付けられた慈悲(盲目の慈悲の反対)
これを踏まえて設問を見てみますと、
1は「人間のみを対象として」とありますので、相手が人間でもイヌやネコのような動物でも、仏の慈悲の相手は人間に限定されたものではありませんので間違いだとわかります。
2は「親子や兄弟などの間に生まれる愛情」とありますが、仏の慈悲は、親や兄弟に限定されるものではありませんので間違いです。
3は「上座部仏教では教えられない」とありますが、上座部仏教も大乗仏教も、仏教の目的は抜苦与楽ですから、慈悲が教えられないことはありません。間違いです。
4は上の曇鸞大師のお言葉と「慈」「悲」の説明が逆ですが、仏教ではこのように説明されることもありますので、これが正確となります。
よって、この問8は4が正解です。
では、慈悲とは抜苦与楽ですが、仏教で抜くと言われる「苦」とは何か、与えると言われる「楽」とは何かについて、こちらの記事で詳しく解説しています。
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