相手の幸せを願うと幸せがやってくる|自利利他を実践して栄えた近江商人
春は卒業、そして新たな始まりの季節。
住む環境や人間関係など、何かと変化の多い時期ですね。
自分はこれから何がしたいのか。
どう進んでいくべきか。
今まさに人生の岐路に立っている方もあるでしょう。
近頃は、“ガマンしない生き方”とか“自分のやりたいことをしよう”など、自分の思いに正直に生きればいいじゃないか、という風潮もあります。
しかし、そうして皆がそれぞれに自分の思いや信念を優先させていれば、それで本当に皆が幸せになれるものでしょうか?
かつて流行語にもなった「○○ファースト」。
この言葉から少し考えてみたいと思います。
同じ「ファースト」でも正反対
「○○ファースト」という言葉が盛んに聞かれるようになり、流行語になったのは一昨年のことです。
小池百合子東京都知事が、議員のためでなく都民中心の政治を、と「都民ファースト」の理念を掲げ、言葉も一気に広まりました。
よく知られるのは、「レディーファースト」でしょう。
女性第一、女性を優先する、という紳士的な言葉としてよく聞かれます。
ところが、近年、トランプ大統領が「アメリカファースト」と連呼しているのを聞くと、何となく傲慢な、受け入れ難い感じがしないでしょうか。
言葉は同じ「ファースト」なのに、なぜでしょう。
先にも挙げた「レディーファースト」は、男性が“女性を優先しますよ”と言っている言葉ですから、好意的に受け止められます。
では反対に、女性が、「レディーファーストでしょ!」と言ったらどうでしょうか?
“女性の私を優先しなさいよ”と、たちまち偉そうな言葉に変わってしまいます。
近頃、「顧客ファースト」を掲げる企業や店も多く見掛けます。
客を大事にしてくれるお店なら、また行きたくなりますから、いい言葉ですが、反対に客が、「顧客ファーストだろ!」と主張したら……。
最近そう言って、必要以上に言いがかりをつけ、店員に土下座までさせる悪質クレーマーが問題になっています。
お金を払っているのだから、客は店に対して何をしてもいいというわけでは、もちろんありませんね。
このように、「ファースト」という言葉は、他人を大切にする「他人ファースト」が本来なのです。
イヤな感じを受けるのは、「自分ファースト(自分第一、自分中心)」の時でしょう。
トランプさんの「アメリカファースト」も、自国の経済や利益を最優先にする自国第一主義、自国中心主義のこと。
もちろん、アメリカ人がアメリカの国益を、日本人が日本の国益を守るのは当然ですが、だからといって、「自分最優先だから、相手はどうなろうとかまわない」では、周囲から反感を買うのも無理はありません。
今、こうした「自分ファースト(第一、最優先)」が、世界的に広がりつつあるといわれます。
“あっちが自分を最優先するなら、こっちだって……”という保護主義の負の連鎖が拡大していると、多くの人が危機感を持ってきています。
お互いに自分優先の考え方をしていて、本当に皆が幸せになれるのでしょうか?
記念写真でまず見るのは……
修学旅行や卒業式で、たくさんの人が写った記念写真。最初に見るのはどこでしょうか?
まず自分の顔でしょう。
目をつむっていないか。前の人に隠れていないか。うわー、変な顔で写っている──。
自分の写り具合が気になるのは、少しでも他人によく見られたいから。
程度の違いこそあれ、皆、自分大好き。本音は「自分ファースト」なのだといえます。
自己中心的な考えを、仏教では「我利我利」といいます。
「我が利益、我が利益」ということですから、自分のことばかりで、他人はお構いなしの心です。
毎日の新聞で、交通事故が載らない日はありません。
法律の罰則強化や自動車の性能の向上などにより、ピーク時の半数以下にまで減ってはいますが、それでも年間43万件、発生しています。
事故を起こす運転者には、「オレが、オレが」と自己中心的でワガママな性格の人が多いといわれます。
相手の立場で考えることができず、“私の車が優先”“相手は道を譲るはず”と無理な追い越しや割り込みをしがちだからだそうです。
「他人を優先したらワシが生きられん」?
人生は、「オレが、オレが」の我利我利では大ケガをします。
一代で100億円蓄財した男が、臨終を迎え、家族を集めてこう遺言した。
「長男に50億、次男に30億、妻に20億と家屋敷を与える」
すると突如、長男が泣きだした。
「おまえ、分け前に不足でもあるのか」
「いいえ、不足はお父さんにあります。他人が、お父さんのことを“金ノ鬼、金ノ鬼”と言っていることをご存じないのですか」
「高利貸しをしていたから知っている。利子が高いと文句を言うなら、借りねばよいのだ」
「抵当があれば、銀行からでも借りられます。でも、それがないから、皆、お父さんから泣く泣く借りているのです。少しは利子を安くしてやるのが人情ではありませんか」
「そんなことをしたら、ワシが生きられんわい」
「しかし、考えてみてください。こうして大金を私たちに遺してくださっても、恨みと呪いの業だけは、お父さんが独り抱えていかねばならないのですよ」
しばらく考えていた金ノ鬼。
「ああ……、ワシは自分のことを、大抵抜け目のない人間と思っていたが、いちばん大事なことが抜けていたのか」
と泣いて死んでいったという。
人生100年時代になったといっても、過ぎた50年を振り返ればあっという間。
短い一生を、大事なことを忘れたまま、「人助け?人情?そんなキレイゴトを言っていたら、この熾烈な競争社会では生きていけないよ」。
自分さえ儲かればいい、と我利我利の心で生きているうちに、誰からも好かれず、最期は泣くことになってしまいます。
手遅れになる前に、考えたい大事なこととは何でしょう?
どうすれば、幸せへの道は開かれるのでしょうか。
「私もあなたも、みんな幸せに」自利利他を信条にした近江商人たち
今から2600年前、インドに現れ、仏教を説かれたお釈迦さまは、
「幸せになりたければ、『自利利他』の道を行きなさい」
と教えていかれました。自利利他とは、
「相手を幸せにすることで(利他)、自分が幸せになれる(自利)」
ということで、「我利我利」の反対です。
相手の幸せを思いやった言葉や行動は、必ず私自身に幸せを運んできてくれる、ということです。
自分のことだけを考えているために、周囲と争って苦しんでいる人。
同じ状況に置かれていても、お互いを助け合い、楽しく過ごしている人。
オレがオレがの「が」を捨てて、おかげおかげの「げ」で暮らせ、といわれますが、感謝の心のない人は幸せとはいえないでしょう。
この「自利利他」を基本の精神とし、今日まで続く発展を遂げたのが、てんびん棒を担いで全国を行商に歩いた近江(現在の滋賀県)出身の商人たちでした。
現在も残る近江商人ゆかりの企業の一つ、国内最大級デパート「髙島屋」の2代目は、
「お客様に得をしてもらうままが、自分たちの利益になるように心がけています。いわゆる『自利利他』は、昔から変わらぬ当店の家風であります」
と語っていたそうです。
彼ら近江商人の信条は、
「売り手よし、買い手よし、世間よし」
の「三方よし」といわれ、現代でも大切な心掛けだといわれます。
これは、売り手の都合ばかりを優先するのではなく、買い手が満足し(買い手よし)、商いを通じて地域の発展や福利にも貢献する(世間よし)という考えです。
この三方よしの信条で正直な商売を心がけた近江商人たちは、遠隔地の行商先で信用を集め、大歓迎されました。
一代で財を築き、成功を収めた人が多いのもうなずけます。
早くに家業を息子や番頭に譲り、自身は寺院の世話をしたり、慈善事業に力を注いだ人も多かったと伝えられています。
近江は昔から仏教、特に浄土真宗が盛んな地域で、教えに明るい商人も多くありました。
「売り手も買い手も世間も、みんなが幸せに」
という「三方よし」の理念も、仏教の「自利利他」から来ているのです。
仏教は「自利利他の教え」といわれます。
自利利他は仏教の根幹である因果の道理から教えられています。
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