なぜ僧侶は肉を食べてはいけないのか|仏教における殺生罪
僧侶は肉を食べてはいけないと言われていることは有名です。
日本ではあまり気にされませんが、海外では僧侶が肉を食べることはもちろん、僧侶に肉を食べさせることも批判されます。
2020年1月22日に韓国で、自由韓国党の黄教安(ファン・ギョアン)代表が旧正月の進物として、韓国で最も大きな仏教宗派である曹渓宗の代表的な僧侶に、ビーフジャーキーを贈ったということで問題になりました。
曹渓宗では肉食を明確に禁じているわけではないのですが、僧侶が肉を食べないのは常識であるため不快感を示し、あわてて自由韓国党側が回収してお詫びをしました。
自由韓国党は「他の所に贈るはずのビーフジャーキーが誤って配達され、このことが分かってから曹渓宗に職員を派遣して直接回収した」と説明していますが、「信じられないミス」「大多数の人が知っている常識を知らないのか」「こんな人たちに政治をしてほしくない」などと批判されています。
このように肉食を禁止されていることで有名な仏教ですが、なぜそのような決まりがあるのでしょうか。
殺生罪
仏教では、生き物を殺す罪を「殺生罪」といいます。
一言で「殺生」といいましても、殺し方によって仏教では三通りに分けられています。
・自殺
・他殺
・随喜同業(ずいきどうごう)
の三つです。
自殺
最初の「自殺」とは、一般的に使われている「自らの命を絶つこと」ではなく、自分で生き物を殺すことをいいます。
食べるために魚や鳥を殺したり、蜂や蚊に刺されて怒りのあまり殺したり、気持ち悪いからとクモやゴキブリを殺したり、釣りや猟などの遊びで動物を殺すことを「自殺」といいます。
「生きるためには仕方がない」「害を与えるから」と理由を付けて私たちは、どれだけの生き物を殺しているか分かりません。
他殺
次に「他殺」とは、他人に依頼して生き物を殺させる罪をいいます。
自分は直接生き物を殺さなくても、自分が殺したのと同罪だと教えられています。
魚屋さんは魚を殺し、肉屋さんは牛や豚を殺しますが、魚や肉を買って食べる人がいなければ、それらの人たちは殺生をしなかったでしょう。
肉の好きな私たちが、肉屋さんに頼んで牛や豚を殺してもらっているのですから、肉を買って食べる私たちは、自分で殺さなくても「他殺」の罪を犯していることになります。
随喜同業
三番目の「随喜同業」とは、他人が生き物を殺しているのを見て楽しむ罪をいいます。
また、殺されていった魚や牛の肉に、舌鼓を打って喜んでいるのも、「随喜同業」の殺生罪です。
私たちは動物を食べるのを当たり前だと思っていますが、食べられる動物たちは決して人間に食べられるのが当然とは思っていないでしょう。
どんな生き物でも、死にたくないのは、私たちと変わらないはずです。
殺される瞬間に人間とはなんと残酷なものかと、強く呪って死んでいるに違いありません。
ちょうど私たちが無実の罪で殺され、肉体を食べられる恨みと、少しも変わりはないでしょう。
お釈迦さまは、すべての生命は平等であり、上下はないと教えられています。人間の命だけを尊いと考えるのは、人間の勝手な言い分です。動物を殺すのも恐ろしい罪に変わりはありません。
このようなことから仏教では殺生を禁じられ、肉食も禁じられているのです。
あえて肉食された親鸞聖人
殺生が禁じられている中であえて公然と肉食をされた方が鎌倉時代に活躍された親鸞聖人です。
親鸞聖人は31歳のときに肉食妻帯をされました。
「肉食」は肉を食べること、「妻帯」は結婚することです。
当時は今以上に「肉食」「妻帯」について厳しく見られた時代でした。
当然それを断行された親鸞聖人は自由韓国党の黄教安(ファン・ギョアン)代表以上に仏教界からも世間からも非難攻撃を受けられました。
八方総攻撃を覚悟のうえで、なぜ公然と肉を食べ、結婚されたのか。確固たる意志が聖人にはあったのです。
明治の文豪・夏目漱石は、「親鸞聖人に、初めから非常な思想(信念)が有り、非常な力が有り、非常な強い根底の有る思想を持たなければ、あれ程の大改革は出来ない」
と言っています。
親鸞聖人が僧侶の身で公然と「肉食妻帯」を断行されたのは、男も女も、ありのままで平等に救われる教えが真実の仏教だと明らかにするためです。
もしも肉を食べているものが救われないとしたら、救われるのは山にこもって修行をして肉を一切を食べない人だけになってしまいます。
すべての人が救われることを明らかにするために、あえて親鸞聖人は肉食をされたのです。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
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