獅子身中の虫とはどういうこと?最大の敵は内にあると教えた釈迦の教え
4月4日は「しし」の日、獅子の日ということで4月4日のテレビ朝日「グッドモーニング」の「ことば検定」で林修先生が「獅子身中の虫」の由来について解説していました。
獅子身中の虫の由来は?
- 宗教
- 軍隊
- 討幕派は酒好き
答えは「宗教」です。
ちなみに討幕派は酒好きというのは、明治維新の志士(しし)達は焼酎が好きだったことから「志士、焼酎の虫」で出したそうです。
獅子身中の虫の由来の宗教とは仏教のことです。
辞書での意味は
- 仏教徒でありながら、仏法に害をなす者。
- 組織などの内部にいながら害をなす者や、恩をあだで返す者。
で、元々は戒律について記した経典『梵網経(ぼんもうきょう)』というお経に出てくる言葉です。
ではお釈迦さまは梵網経に、どのように教えられているのでしょうか。
梵網経の獅子身中の虫
梵網経は出家した人が守るべき戒律について説かれたお経です。
「獅子身中の虫」はその戒律の四十八番目の自壊内法戒という戒律について説かれたところに出てきます。
以下はその原文です。
なんじ仏子、好心を以て出家せるに、名聞利養の為に、国王・百官の前に於て、七仏戒を説くは、横に比丘・比丘尼の菩薩弟子のために、繁縛の事をなすこと、獅子身中の蟲(むし)の、師子の肉を食ふが如し。余外の虫に非ざるが如し、是の如く、仏子自ら仏法を破る。外道・天魔のよく破るに非ず。
『梵網経』「十重四十八軽戒」第四十八軽戒より
今の言葉にすると
「仏弟子のそなたらに言っておこう。よい心がけで出家したのに、自分の名誉欲を満たすために国王や家臣たちに『七仏戒』を説いて仏弟子の罪をあげて、出家した僧侶や尼を逮捕させることがあれば、あたかも獅子が体内に入り込んだ虫によって、肉を食べられるようなものだ。体の外にいる虫に食べられるのではない。このように仏法は仏弟子によって壊される。外道や天魔などの外からによって壊されるのではない。」
という意味です。
ですから「獅子身中の虫」の本来の意味は「私は仏法者です。僧侶です」と言っていながら仏法を壊す者のことでしたが、そこから転じて、組織の内部にいて組織に害をなす者のことを言うようになりました。
親鸞聖人も使われた「獅子身中の虫」
鎌倉時代に活躍された親鸞聖人も息子の善鸞へのお手紙に、このように使われています。
仏法をばやぶるひとなし。仏法者のやぶるにたとへたるには、「獅子の身中の虫の獅子をくらふがごとし」と候へば、念仏者をば仏法者のやぶりさまたげ候ふなり。よくよくこころえたまふべし」
『親鸞聖人御消息』第二十八通「慈信房御返事」
ここで親鸞聖人のご生涯について簡潔に説明します。
親鸞聖人は京都でお生まれになり9歳で比叡山に出家され、29歳のときに法然上人から阿弥陀仏の本願を聞かせていただいて信心決定されました。しかしその後、「一向専念無量寿仏」を強調したとして35歳のときに越後に流刑に遭われてしまいます。その後40歳過ぎに関東に赴かれた親鸞聖人は20年間関東で布教されて60歳頃に京都にお帰りになりました。
親鸞聖人のより詳しい御一生についてはこちらの記事をご覧ください。
このお手紙は親鸞聖人が関東から京都に帰られた後、関東に残した息子の善鸞が親鸞聖人に「お父上の弟子の○○さんがおかしなことを言っていますよ」とウソの手紙を書いた際のお返事です。
お手紙の中で親鸞聖人は
「仏法が壊されるのは弾圧や迫害などの外からの力ではない。獅子は外敵によって倒されることはないが、体内にいる虫に獅子を食べられ倒されるように、仏法は誤った仏法者によって壊されるのだ」
と仰り、「この手紙をそれらの弟子に読ませてほしい」と善鸞に頼んでいます。
しかし実は善鸞こそが獅子身中の虫でした。
善鸞は親鸞聖人の教えと全く違うことを「これは父・親鸞より自分だけが聞かされたことだ。他の弟子の言うことを信じてはいけない」と吹聴して回り、己の名誉と利益のために正しい教えを曲げていきました。
真相を知られた親鸞聖人は、幾度も諫めの手紙を出されますが一向に善鸞は改心しません。
親鸞聖人は「我が子のために多くの人を惑わせるわけにはいかない」と獅子身中の虫を体ごと取り除くような断腸の気持ちで、善鸞を勘当されました。
温厚なイメージの親鸞聖人が息子を勘当するとは一体どのようなことがあったのか。詳しくこちらの記事で紹介しています。
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