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お釈迦様物語 なぜ生まれてきたのか
修行者と少女 

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カテゴリー:お釈迦様物語 タグ:
 

なぜ生まれてきたのか 修行者と少女 

遠くからも目立つその屋敷は、周りの貧しい家々の中に、ひときわ重厚な門構えを見せている。
修行者がこの家の少女と出会ったのは、ある暑い日の行乞の途中。
あまりにのどが渇き、水を一杯所望しようと訪れたのだ。
歓声をあげて往来を駆け回る近所の子供たちの横で、彼女は一人、まるで罰でも科されているように玄関の前でうずくまっていた。
まだ十にも満たぬ年ごろなのに、今にも消え入りそうな佇まい。彼は優しく声を掛けずにいられなかった。
自ら水を運んできた少女の、子供らしい人懐っこさを湛えた瞳からは、年に似合わぬ悲しい色合いが見て取れる。
“なぜだろう”。気にかかって修行者は、その後も門前を通るたびに、彼女に声を掛けるようになった。
ある時、近所を托鉢していると、供物を施してくれた主婦から、少女の母親がすでにこの世にないことを知らされた。
体が弱かった母親は、彼女を生んですぐに亡くなったという。
仕事で成功した父親も、慈愛に満ちた優しい祖父母も、彼女にいっぱいの愛情を注いでいたが、母のない寂しさを埋めることができないでいるようだ。
人生は、一つ持っていると思えば、ほかの大事な何かが欠けていることがある。
完璧な生きざまなどはないものだな、と修行者は痛感した。
だがその欠け目が、人を真実に向かわせる大きな勝縁になることもよく心得ている。
どうかあの少女に仏縁あれかし、衷心から念ずるしかなかった。

なぜ生まれてきたのか 修行者と少女

その日も乞食に勤しんでいた出家が少女の門前を通りかかると、しゃがんでいる後ろ姿がいつもより小さく見える。どうかしたの、と彼は声を掛けた。
「今日はね、私、誕生日なの」
作り笑いを浮かべて、彼女は答えた。わざと明るく、彼は返した。
「それはめでたい日じゃないか。なのになぜ、そんなにうつむいているの?」
「だって、今日は悲しい日よ。私がお母さまを死なせてしまった日ですもの」
ハッとして修行者は自身の鈍感を恥じる。少女は続けた。
「私が生まれなければ、お母さまは死なずにすんだのよ。なのに何で私は生まれてきたのかしら、いつも考えてるの」
砂をいじっていた小さな手を、彼女はパンパンとはたいた。幼い心一杯に詰め込んでいた思いを見せつけられた気がして、修行者は胸が詰まった。
「なぜ生まれてきたか、その答えを知りたいかい?」
強烈なまなざしが、途端に出家を射抜く。少女は瞳でうなずいた。
「人と生まれるのは大変に難しい。私の先生のお釈迦様はこう教えられている」
「お釈迦さまが?」
「そう。私たちは人に生まれる前、そこらにいる犬や猫、森の中を飛び交う鳥や虫であったこともある。
水を棲み処とする魚や、あるいは私たちには見えないが、人よりも貧しい餓鬼道や争いばかりの修羅界、最も苦しみの激しい地獄に生まれていたことも、一度や二度ではなかったのだよ、とね」
修行者は、目の前の砂を一つまみ、自分の親指の上に載せた。
「人間に生まれている者は、大変少ないのだとお釈迦様は仰せられている。
どれほどか分かるかい?この大地の土をあらゆる生き物すべてとするならば、ほら、この爪の上の土が私たち人間なんだ」
「こんなにちょっと?」
少女は目を瞠った。
「そう。お母さんが命と引き換えに与えてくだされたその体は、まことに得がたいものなのだよ。どれほど得がたいか、もう一つ、例え話を教えよう」
こう言って出家は、傍らの木片を手に取ると、地面に絵を描き始めた。

なぜ生まれてきたのか 修行者と少女 

器用に木片を操り、地面に波を描く。修行者の絵は巧みだった。
「これは海。見たことあるかい?」
小さく少女はうなずいた。
脳裏に、かつて父に連れられていった風景が浮かんだ。
青い空の下、浜辺の木々をなぎ倒すような強風とはるか彼方から寄せては返す波しぶき。
轟音が響き、強烈な潮の香りが鼻腔を刺激する──荒ぶる海の記憶が五感を通じてよみがえり、彼女は一瞬、顔をしかめる。出家は続けた。
「ある時、お釈迦様は仰せられた。果てしなく広い海の底に、目の見えない亀がいる。その亀は百年に一度、波の上に浮かび上がるのだ、とね。亀って知っているかい?」
「知らない。どんな生き物?」
「硬い甲羅を持っていて、とても長生きするんだよ。ほら、こんなふうに海の中をゆったりと泳ぐんだ」
波の下に、甲羅と手足を描き加える。頭と尾も出した。
「この目の見えない亀が泳いでいる海には、一本の丸太ん棒が浮いている。その丸太の真ん中にこれくらいの穴が開いているんだ。
丸太ん棒は、風のまにまに、東へ西へ、南へ北へと海の上を漂っている」
波間に穴の開いた丸太を重ね、少し間を置いて、ゆっくりとこう続けた。
「そこでお釈迦さまはある弟子に聞かれたんだ。『百年にたった一度浮かび上がるこの亀が、浮かんだ拍子にちょうどこの丸太の穴にひょっと頭を出すことがあるだろうか』ってね。どう思う?」

なぜ生まれてきたのか 修行者と少女 

少女の頭に、またあの海が浮かぶ。深い海の底を、どこへともなく泳ぐ亀と、頼りなく流されるままの丸太。
互いを求めているわけでもなく、しかも亀が波間に浮かぶのは百年に一度きり。
気の遠くなるような思いに駆られて少女は、
「……そんなこと、考えられないわ」。
仏弟子はニッコリ笑ってうなずくと、急に真顔になり、
「そうだね。とても考えられない。でも、その時、お釈迦様はこう仰せられたんだ。
『だれでも、そんなことは全くありえないと思うだろう。しかし、全くないとは言い切れぬ。長い歳月を重ねて繰り返していけば、何かの拍子に穴に頭を出すことがあるかもしれない』
分かるよね。でもね、人間に生まれることは、この例えよりも、さらにありえぬ、難しいことなんだ、有り難いことなんだよ、と教えられたんだ」
驚いた少女は目を見開いた。出家が問う。
「そなたは今、そのような有り難い人身を得て生まれてきた。母上が命を懸けてこの世に生んでくだされたのだよ。
その尊い一生を、暗い心で送っていることは、そのお心にかなうことだろうか?」
すぐさま少女はかぶりを振った。
「仏陀・釈迦牟尼は、この人生を真に輝かせる教えを説いておられる。生まれたことには崇高な意味があるのだ。どうか、よく学んでほしい。これが私からの誕生日の贈り物だよ」
修行者はこう言うと、居ずまいを正し、朗々とお釈迦様のお言葉を謳いあげた。

人身受け難し、今已に受く。仏法聞き難し、今已に聞く。
この身今生に向って度せずんば、
さらにいずれの生に向ってか、この身を度せん。

よく徹る仏弟子の声に聞き入りながら、少女は聖語を胸に納めようと小さな両の掌を合わせる。その瞳からは、温かく穏やかな光が放たれていた。

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あさだ よしあき

ブログ作成のお手伝いをしています「あさだよしあき」です。 東京大学在学中、稲盛和夫さんの本をきっかけに、仏教を学ぶようになりました。大学院修了後、社会の荒波の激しい中、心にぶれない軸ができ、どうすれば、周りの人に喜んでもらえるかを中心に、毎日、心豊かな生活を送ることができています。 仕事のかたわら、わかりやすい仏教講座に、年間100回、立ってきました。現在は、1から仏教を学びたい人の為に、わかりやすい教材作成に取り組み、20年以上、学んできたことを、伝えたいと思っています。 ちょっとした関心から、奥深い仏教の世界を垣間見てほしいと思います。
 
 
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